刑事手続は、国が個人を処罰しようとする手続きです。その対象とされた個人には、十分な防御権が保障されなければなりません。いちばんの当時者である被告人は、証拠やそのほかの情報について、知ることができるというのが大原則であるべきです。
もちろん、例外的に、被告人が知ることについて、制限が加えられることもあります。
このような場合、検察官は、弁護人に対して、被害者特定事項が被告人に知られないように求めることができます。刑事訴訟法299条の3の規定です。
本件は、このような「おそれがあると認める」場合だったのでしょうか。このような「おそれがあると認める」場合でなかったのなら、被告人が知ることは、制限されるべきではありません。
もし、このような「おそれがあると認める」場合であり、それが根拠あるものであれば、検察官は、弁護人に対して、情報を開示した上で、被告人に知られないように求めればよかったのです。
刑事訴訟法299条の3 検察官は、第二百九十九条第一項の規定により証人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。ただし、被告人に知られないようにすることを求めることについては、被害者特定事項のうち起訴状に記載された事項以外のものに限る。
(彦坂)